「確定申告」はじめての疑問に答えます──YES講座「初心者向け アーティスト、フリーランスのための確定申告講座」レポート

アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)が中心となって運営する、文化芸術創造都市横浜・臨時相談センター「YES」。新型コロナウイルスによってさまざまな影響を受けた文化芸術活動の担い手たちのための”対話型”オンライン相談窓口として5月に開設され、文化芸術活動の実務経験者や、国家資格を有する税理士、会計士、弁理士、弁護士、中小企業診断士、社労士、行政書士などがサポートにあたってきました。そんなYESの新たな試みとして、オンライン講座を行っています。

画像: 文化芸術創造都市横浜・臨時相談センター「YES」のウェブサイト

文化芸術創造都市横浜・臨時相談センター「YES」のウェブサイト

2月5日には「初心者向け アーティスト、フリーランスのための確定申告講座」と題した講座を開催しました。講師は公認会計士・税理士の山内真理さん、サポートは行政書士・作田知樹さん。お二人とも、現在“YES”の相談員でもあり、芸術文化活動のマネジメント支援を10年以上行う非営利団体「Arts and Law」のメンバーとして、これまで法律・会計のプロフェッショナルとして文化芸術の分野を支えてきました。ここでは、山内さんによる確定申告の「いろは」のレクチャーの様子をレポートします。

画像: 下=山内真理さん、左上=杉崎栄介さん(ACY)、右上=作田知樹さん

下=山内真理さん、左上=杉崎栄介さん(ACY)、右上=作田知樹さん

「確定申告」って何?

今回のコロナ禍で様々な助成金や給付金に申請する場面も増え、「確定申告はしたほうがいいの?」「アーティストとしての収入はどのように証明したらいいの?」という疑問を抱いた人は多いはず。アーティストやフリーランスとして活動するならば、確定申告は必ずしておいたほうがよいと山内さんはいいます。

「たとえば個人事業主も対象となる持続化給付金では、過去の確定申告書類の提出が原則として必要となります。フリーランスが自らの過去の収入や活動の状況を第三者に証明するためのほとんど唯一の手段が、確定申告です。また、個人事業主として開業をした場合には『開業届』を必ず提出し、手元に控えを残しておく必要があります」

では、確定申告とはいったいどのようなもので、いつまでに行う必要があるのでしょうか。

「確定申告とは、毎年の収入、経費、控除を元に課税対象となる所得(もうけ)を計算・計算し、税金(所得税等)を申告するものです。2020年分の申告期限は3月15日まで。今年は延長されて4月15日までとなりましたが、できるだけ3月15日までに済ませておくようにしましょう。提出方法には郵送やe-tax(電子申告)があり、e-taxの場合はID/PW(パスワード)方式がおすすめです」

コロナの影響でフリーランスとしての仕事が減少し、臨時のアルバイトや副業をした人も多い2020年度。確定申告をしなければならない主なパターンとして、山内さんは以下の5つを挙げています。

画像:(講座スライドより)

(講座スライドより)

⑤の「源泉税」とは、デザイン料や原稿料などの報酬から、所定の方法により差し引かれる所得税額のこと。この源泉税が、自分が実際に納めるべき税額より多かった場合、確定申告によって差分を取り戻すことができるのです。

また、山内さんが質問を受けることが多いのが、親の扶養に入っている場合の確定申告。「親の扶養に入っている場合でも、確定申告によって扶養から外れるということはありません。これに限らず、収入が少なく申告義務がない場合に申告してはいけないわけではないので、自分の収入証明のためにも確定申告しておくことがおすすめです」。

白色申告と青色申告の違いは?

そして、次のハードルになるのが「白色申告」と「青色申告」の選択。このふたつの違いはどこにあるのでしょうか。

  • 白色申告:収入と経費の収集記録に基づき「収支内訳書」を作成
  • 青色申告:簿記のルールに従って帳簿を作成し、「損益計算書」と「貸借対照表」を作成

白色申告のほうが書類は少なくて済みますが、山内さんは様々な特典を受けられる青色申告を推奨します。「青色申告では最大55万円(e-tax活用なら65万円)の控除が可能です。また、損益計算書の作成だけでも10万円の控除が可能になります。書類の作成は細かくて大変に見えますが、いまはフリーランス向けのクラウドソフトもたくさんありますので、かなり楽に作成することができます。国税庁のサイトでは『確定申告書等作成コーナー』を無料で使うこともできるので、まず触ってみるのがよいでしょう」

画像:実際の確定申告書類(講座スライドより)

実際の確定申告書類(講座スライドより)

加えて青色申告では、損失の繰越しまたは繰り戻しが可能。「繰越し」では、赤字を最長3年間にわたって繰り越すことで税負担を軽くすること、「繰戻し」では、過去に申告した年度の黒字にさかのぼって赤字を相殺し、前年の税額を還付請求することができます。

青色申告の特別控除や損失の繰越し等の特典は期限内申告が前提となるほか、通常前年の3月15日までに「青色申告承認申請書」の提出が必要。しかし今年はコロナの影響のため、個別延長申請を行うことで、いまからの提出でも間に合うケースもあるといいます。

必要経費の考え方とは?

確定申告で重要となる「経費」の計算。まずはレシート、領収書、請求書、支払通知、購入明細、クレジットカード利用明細などから経費を分類・集計・記録してみましょう。レシートがない場合は、日付・勘定科目・内容・金額を記した「出金伝票」を作成し、データの場合はキャプチャをしてPDFなどで保存しておけばOKです。

では、文化芸術に関わる活動のなかで、どこからどこまでが「必要経費」となるのでしょうか。所得税法では、食事や洋服、化粧品など生活のために必要とされる「家事費」、業務との関連性や業務上の必要性を客観的に説明できる「必要経費」、そしてそのあいだの「家事関連費」の3つが区別されています。しかし山内さんは、その明確な線引きが法令で具体的に記載されてはいないと話します

「たとえばフリーランスの場合はカフェなどで仕事をすることも多くありますが、その際の飲食費が『必要経費』になるかはケースバイケースです。しかし逆に、日用品や食品など『家事費』に入りそうなものでも、作品の素材として使った場合にはもちろん『必要経費』になります。『家事関連費』を経費に算入できる条件としては、業務上の関連性・必要性が客観的に説明でき、その必要な部分だけを合理的な基準で抽出して計上しているかが大事なポイントになります」

10年以上にわたり文化芸術の領域でアーティスト・クリエイターを支えてきた山内さん。「個人によって活動や制作のスタイルは千差万別で、当然支出のあり方も変わってきます。形式的にどうかということではなく、制作や活動全体にとっての必要性があれば当然認められるという考え方になるでしょう。展覧会や公演などのアウトプットの手前で、創作のためにどんなことを吸収しているのかに着目することが大切です。そのために、実質的に関連しているかどうかを客観的に観察し記録することが必要で、仮に税務署の調査が入ったとしても、活動や作品、制作プロセスと関連付けて説明できるものは必要経費として判断される可能性は高くなります。」と語りました。

画像:(講座スライドより)

(講座スライドより)

また、コロナの影響による施設のキャンセル料などは必要経費となりますが、業務上の必要性に関わらず任意で受けたPCR検査費用、コロナ陰性証明書発行費用などは入れられない可能性が高いといいます。逆にいえば、相手との出演契約書に検査することが出演条件となっており、その検査が自己負担ということであれば、経費として認められる場合があるということです。また、こうした費用のうち医師の指示によるもの等は医療費控除の対象となる場合もあるそうです。

そして、最後のトピックは「コロナ関連助成金は収入として計上すべきか」。まず10万円の特別定額給付金は非課税のため、計上の必要はありません。持続化給付金(ただし給与所得者向けのものは一時所得、雑所得者向けのものは雑所得)、家賃支援給付金、感染拡大防止協力金、文化芸術活動の継続支援、雇用調整助成金は、事業の収入に含める必要があります。

「確定申告」の基本的な疑問に答える山内さんの講座はここまで。「まずは確定申告のイメージを持っていただくことを重視してお話しました。今後、追加でコロナ対策関連の助成金などが出たときに困らないよう、ぜひ確定申告にチャレンジしてみてください。それから開業届を出しそびれてしまったという方も、この機会にあわせて出すとよいでしょう。その際は控えの保管をお忘れなく!」

また、今回サポートとして参加した作田さんは最後に、「納税だけでなく、自分の収支を把握する機会としても確定申告は大切です。マンガ型の参考書でもよいので、簿記3級の勉強をするとぐっと理解が深まると思います」と話しました。お二人とも「フリーランスとして月10万円程度、年間100万円を超える収入があれば、必ず確定申告はした方が良い」と見解を述べられ、これまで経験がなかったという人も、今年から確定申告のはじめの一歩を踏み出してみたくなるよう締め括られました。

取材・文:白尾芽(voids)

講師プロフィール

山内 真理(やまうち まり)
1980年千葉県生まれ。一橋大学経済学部卒。Yamauchi Accounting Office代表。公認会計士・税理士。有限責任監査法人トーマツにて法定監査やIPO支援等に従事した後、2011年にアートやカルチャーを専門領域とする会計事務所を設立し、現在に至る。豊かな文化の醸成と経済活動は裏表一体、不可分なものと考え、会計・税務・財務等の専門性を生かした経営支援を通じ、文化・芸術や創造的活動を下支えするとともに、文化経営の担い手と並走するペースメーカー兼アクセラレータとなることを目指す。また、これら担い手との協働を通じ彼らの提案力を会計面からサポートし、産業とクリエイティブの融合の触媒になりたいと考えている。知財領域の法律専門家等を中心に法律的側面から文化・芸術支援の非営利活動を展開するArts and Lawの代表理事(共同代表)でもある。平成30年4月に特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会の理事に就任。共著に「クリエイターの渡世術」、一部監修に「イラストレーターの仕事がわかる本」。
作田 知樹(さくた ともき)
文化政策実務家・研究者。前国際交流基金ロサンゼルス日本文化センター副所長。2004年、芸術・文化・創造的な活動への支援を行う弁護士・弁理士・会計士などの専門家による非営利団体「Arts and Law」を創設。2014年まで代表理事、現在は事務局を担当。行政書士(東京都行政書士会)。文化芸術創造都市横浜・臨時相談センター “YES” 相談員統括。京都精華大学大学院非常勤講師。著作に『クリエイターのためのアートマネジメント 常識と法律』など。